記事一覧

ワキガになるのは不潔だから? いいえ、個別の化学反応です

ワキガ臭はこれらの3つの汗腺類が微妙に関係し合っています。その中心になるのがアポクリン汗。本来はアポクリン汗も無臭なのですが、そこに含まれる脂肪分やタンパク質が、皮膚にある細菌によって分解されると、強い腐敗臭を発するようになります。これに、皮脂腺からの皮脂が加わり、さらにニオイが強まります。そして、この「ニオイの元」がエクリン汗によって、ワキ全体に広げられ、ワキ毛にからまることで、ニオイが発散されます。これがワキガ臭の正体です。

さらに汗腺類からの分泌物と皮膚表面に住み着く細菌。これらが揃ってはじめて、ワキガのニオイを発するのです。「毎日お風呂に入っているのに肌に細菌なんて」と思われるかも知れませんが、この細菌は常在菌と呼ばれ、肌に付着した異物や雑菌を分解してくれる、言うなれば「肌の掃除屋さん」。私たちにとっては、なくてはならないものなのです。汗腺類も、それぞれに大切な役割を持っています。エリクン汗腺は塩分を含んだ汗を皮膚表面に分泌することで、肌を弱酸性に保ち、有害な雑菌から肌を保護しています。

皮脂腺から分泌される皮脂は、肌のうるおいを保つために欠かせません。ちゃんと有用な働きをしているこれらの組織も、そのハーモニー次第ではやっかいな症状として表れてしまうのです。ただし、これらの汗腺類は数も密度も、活動の活発度も大きな個人差があります。アポクリン汗の成分も人によって少しずつ違い、皮膚の常在菌の種類や数にも差があるのです。こうした個人差により、ニオイ・体臭は人それぞれに違うわけです。

ワキガ臭の原因とそのメカニズム

●エクリン汗腺
エクリン汗腺は全身に分布しており、直径0・4ミリという小さな組織であることから「小汗腺」とも呼ばれています。皮膚表面から1~3ミリと、比較的浅い部分にあり、皮膚表面に開口して汗を分泌しています。暑いときや運動時にかく、あの汗です。ここから分泌される「エクリン汗」は、皮膚表面で蒸発することで、熱を発散させる働きがあります。暑いときに汗をかくのは、これによって体温を下げるのが目的です。成分の99%は水分で、わずかに塩分を含み、汗自体は無色、無臭でサラリとしているのが特徴です。

「汗臭い」と言われるのは、かいた汗をそのままに放置することで、皮膚上で雑菌が繁殖し、ニオイの原因になっているのです。土壌と入り交じったニオイの場合もあるでしょう。この汗腺は皮膚の1センチ四方に平均100個、全身で約230万個も存在すると言われており、一日に平均なんと1・5~2リットルもの汗を出しています。一つひとつは小さな存在ですが、実はかなりの働き者です。ちょっとした気温の変化や精神的な緊張などで、すぐに汗をかいてしまう汗っかきの人は、このエクリン汗腺の働きが活発な人ということが言えます。もちろん、多汗症のカギを握るのもこのエクリン腺です。

●アポクリン汗腺
もう一つのアポクリン汗腺は、エクリン汗腺の10倍ほどの大きさがあり、そのため、「大汗腺」とも呼ばれています。エクリン汗腺より皮膚の深いところにあり、開口部は毛穴につながっています。そのため、ワキ、耳の中、乳首、へその周辺、陰部など、体毛の濃いところにだけ存在します。なぜか頭皮には存在しません。「アポクリン汗」はエクリン汗に比べると、分泌量が少なく、成分に脂肪やタンパク質、色素、蛍光物質などを含み、少し粘り気があるのが特徴です。

一度、汗をかくと24時間ほど活動を休止するという点からも、エクリン汗腺とはかなり違った働きをしていると考えられていますが、まだはっきり解明されていない点が多いのも実情です。ただし、ストレスや精神的な緊張だけでなく、性的な興奮などでも発汗することや、汗腺が限られた部分だけに分布していることから、フェロモン分泌管としての働きもあるようです。多くの動物は、決まった時期になると、子孫を残すためにパートナーを求める行動に出ます。そのために特殊なニオイを持つフェロモンを出して、異性を惹きつけようとするのです。

私たち人間も動物の一種ですから、太古の昔にはこうした習性を持っていたとも考えられます。しかし、知能や文明の発達によって繁殖期というものが失われ、それと同時にアポクリン汗腺も、その存在意義が薄れてしまったのかもしれません。その果てに、邪魔者扱いされてしまう羽目になるとは、動物の一種としてみると、皮肉な進化を遂げてしまったものですね。

●皮脂腺
アポクリン汗腺と同様、毛穴に開口して脂肪分を分泌する器官です。ここから分泌された脂肪はエクリン汗と混ざり合い、皮膚表面に薄い膜をつくり、肌を保護する役割を持っています。皮脂の分泌量が多過ぎると、肌がべ夕つきオイリー肌となりニキビの原因になり、少な過ぎると乾燥肌になるなど、女性の肌トラブルの多くが、この皮脂腺に深く関係しています。

「ワキガは不潔が原因」という悲しい誤解

このように清潔を保つことによって、ワキ臭はある程度まで軽減することはできますが、ワキガ体質の場合は、それだけでは根本的な解決にはなりません。しかも、正しい知識や情報が、一般的にはほとんど知られていないので、「ワキガは不潔が原因」と誤解をしている人も少なくないどころか、むしろそう思っている人の方が多いかもしれません。

これではワキガ体質の人やその予備軍の人が肩身の狭い状況になってしまうのも無理のないことです。ニオイと汗の悩みは、本人にとっては本当に切実なものです。普通以上に清潔な暮らしをしているにもかかわらず、日に何度もシャワーを浴びたり、着替えをしたり、何種類もの制汗剤やコロンなどを常備しながら「自分はまだ清潔に対する心配りが足りないのかも」と思っている人がいるとしたら、本当にお気の毒です。

私たちの肌の表面には「汗腺」というものがあります。「ワキ汗・ワキ臭チェック」でも簡単に触れましたが、この汗腺には2種類あり、ひとつは「エクリン汗腺」、もうひとつは「アポクリン汗腺」と言います。これに加えて「皮脂腺」という器官があり、これら3つの器官から出る分泌物がワキガに関係しています。ワキガとは、汗腺類からの分泌物(脂肪分やタンパク質)が皮膚の常在菌(細菌)によって分解され、ワキガ臭となる強い腐敗臭を発生するということなのです。

ワキガと汗臭さは別物です

ワキ汗やワキ臭は、健康や生命の危険に直結するものではないので、一般的な病気扱いをされることはありません。しかも、非常にデリケートな問題を含むため、その症状を声を大にして訴えることはなかなかできません。肉体的な痛みであれば、同情されたり労られることはあっても、他者がその痛みを共有することはできません。しかし、ニオイの場合はそれがないばかりか、「相手に不快感を与えているのではないか」という不安や遠慮で心理的には相当なプレッシャーになります。

その結果、正しい知識や情報が伝えられにくく、現在でも多くの誤解があるのが現状です。まず、ワキガは「汗そのもののニオイとは全く別物である」ということを理解してください。確かに、何日間もお風呂に入らなかったり、運動して大量の汗をかいたりした後などは、体臭は強くなりますが、これはあくまでも「汗臭さ」です。こうした汗のニオイにプラスして、噂好品である酒やタバコ、女性ならば化粧品や香水の香り、また人それぞれの口臭や頭皮のニオイなど、これら複数の香りが揮然一体となって、その人固有の「体臭」になっているのです。

「ワキガ」は、これらの「体臭」ともまったく異なるニオイです。その最大の違いは「ニオイを予防できるかどうか」という点に尽きます。髪や汗のニオイなら、入浴してキレイに洗い流せば解決します。口臭なら食事に気を配ってこまめに菌を磨くことでかなりの予防が可能です。中には胃腸や鼻の病気に起因することもありますが、専門医でしっかり治療をすれば、やがてそのニオイもなくなるでしょう。

同じ二オイでも、欧米ではノープロブレム!

あなたは「ワキガ」や「多汗症」について、どのくらい正確にご存知でしょうか? 不安は抱えつつも、気恥ずかしさや治療に関する間違った認識によって、専門医に相談するのをためらう方は多いでしょう。また、身体的苦痛を伴う症状がないだけに、いざ治療を受けようと思っても、「さすがに手術までは、ちょっと大袈裟かな?」と踏みとどまってしまう方も多いようです。他の病気のように、体の機能を損ねたり、ましてや命に関わる局面などはありません。けれども、多過ぎる汗や強いニオイは、対人関係のうえで大きなデメリットとなり得ます。

学校でイジメの対象になってしまう場合もあり、中には痛ましいことに死を選んでしまった十代もいます。好きな人ができても告白する勇気が持てなかったり、その距離を縮めることができなかったり。場合によっては、希望する職業につけないといったことも往々にしてあるのが現状です。欧米であれば、かなり事情は違うのです。欧米人にはワキガ体質の人の割合が多いため、体のニオイに対して寛容です。着物にお香を焚きしめて、残り香や移り香を愛おしむといった日本古来の文化と比べて、トイレ事情などから生じる不快な臭いをカバーするために香水が発達したのが西洋の文化です。

海外では、ワキガよりもむしろ多汗症で悩む人の方が多いようです。体臭=フェロモンという文化的認識の違いもあるかも知れません。そもそもワキガの原因であるアポクリン汗腺は、体温調節には関与せず、性的アピールの機能として存在していると考えられます。ところが、日本ではワキガ・多汗症体質の人が少数派のため、より敏感に反応され易いようです。これに追い打ちをかけているのが、近年の「清潔指向」「消臭指向」です。多少のこオイや汗にも嫌悪感を顕わにする傾向があります。ごく普通の中高生が、制汗スプレー剤などをいつも持ち歩くようになりました。

体のニオイに関する話題は非常にデリケートな問題のため、タブー視される傾向にあり、仲のいい友人でもなかなか指摘しつらい状況にあります。携帯電話の普及によって、日に何度もメール交換する相手は何十人もいても、こうした悩みを打ち明けられる友達は極端に少なくなっているのも最近の傾向のように思えます。「自分はワキガ・多汗症ではないか?」と思いながらも、確固たる確信が持てず、ひとりで悩みを背負い込む人が多いのはそのためでしょう。最近では、このように悩んでいるのは若い人ばかりでなく、60歳以上の方が全体の20%にも達しています。